「バカな男よ……。そんなことをしても、手入れのされていない社の中を見れば、廃れた神社だとわかっておっただろうに……」

「その方は、ずっと祈っておられたのですね」

「ああ、そうだ……。来るたびになにかを懸命に祈り、ひとり身の上話をしておった。いつも必ず、主と私の分のどら焼きを供え、思い出話をひとつしていった。だが……」


そこで言葉を止めたお客様に、私たちはなにも言わずに待っていた。
だけど、いつまで経ってもお客様は口を開こうとしなくて、雨天様はお客様の気持ちを察するようにゆっくりと息を吐いた。


「姿を見せなくなったのですね……」

「ああ……。寿命であったのは、わかっておる。あやつは見るたびに生気を失っておったからな……。最後の方は、もう今日が最後かもしれぬといつも思っておった」


悲しげな声が、静かな部屋に落ちていく。
誰もお客様のことは知らないはずなのに、みんな真剣に話に聞き入っていた。


「勝手に手を加えた人間どものことなど、気にしてやることはないと思っておった。主にはいつも、『そんなことは言うな』とたしなめられたが……。そもそも人間が手を加えさえしなければ、豊かな緑に囲まれた小さな社の主は、きっと今もあの場で人々を見守ることができておっただろう。だから、あやつが社に訪れた時も、同じように思っておった。それに、どうせ主がいない以上はなにもできない」

「ですが、あなたの心は動いてしまったのですね」


雨天様が尋ねると、お客様は瞼をそっと閉じた。