「失礼いたします。本日の甘味の、どら焼きでございます」

「ふむ、これがそなたのおすすめの甘味とやらか」

「はい。私の大好物でございます」


再びやって来たギンくんがどら焼きをテーブルに置くと、それをまじまじと見たお客様がコンくんに尋ね、コンくんはどこか得意げに答えた。
普通に話しているコンくんとギンくんを見ていると、本当に大丈夫なのかもしれないと思うようになり、少しだけ不安が和らぎ始める。


程なくして、どら焼きに手を伸ばしたお客様がたったのひと口でそれを飲み込んだから、つい目を大きく見開いてしまったけれど……。
直後に鋭い瞳が和らいだことに気づいて、思わずその表情の変化に見入っていた。


「これは、うまい……。おかわりはないのか?」

「こちらにございます」

「……そなたがここの主か」


タイミングよく姿を現した雨天様に、お客様は品定めをするような瞳を向けたあとで確信めいた口調で言った。
雨天様が笑顔で頷き、部屋の中に入ってくる。


「はい、雨天と申します。我がお茶屋敷へようこそお越しくださいました。どら焼きはまだまだございますので、お好きなだけお召し上がりくださいませ」


そして、雨天様はお客様の傍で膝をついてどら焼きがたくさん載ったお皿をテーブルに置くと、私の隣に腰を下ろした。
右側に座った雨天様の横顔を見て、ようやく深く息をすることができたような気がした。