「ひかり様をご自宅にお送りしたのは、私とギンです。本来は自力でお帰りになられるのが普通なのですが、人間だけは我々がお送りすることになっています。そして、きちんと送り届けたあと、ここでの記憶を消す術をかけるのです」

「だから、すぐに思い出せなかったってことなんだよね?」

「いえ、本来なら二度と思い出すことはないはずなのです。現に、八十年前に現れた人間は、この世を去るまで術にかかったままにございました」

「でも、私は思い出したよ?」

「正直、その理由は我々にもわからないのです。術は確かにかかっておりましたし、ギンとともにそれは確認しております。雨天様も術の形跡を見つけられたようですので、確かにかかっていたはずなのです。しかし……」

「ひかりは、再びここに来てしまった」


コンくんがためらったのを見計らうように、雨天様が口を挟んだ。
ギンくんは黙ったまま、私を見つめている。


「人間がここに来た場合、記憶を消してしまうのは再びここを訪れないようにするためなのだ」

「えっと、それってここには一度しか来ちゃいけないってこと?」

「一度しか、というわけではないが、決して何度も足を踏み入れてもよいような場所ではないな」

「ここが神様の家だから?」

「それもある。だが、もっと別の理由の方が強い」


雨天様は困り顔で微笑し、「百聞は一見に如かずか」とひとり言のように零した。