「ひかり様に私の声が届いたのは、ひかり様が深く傷ついておられたからなのです。私の声が魂に届きやすい状態というのがあるのですが、それは総じて心に深い傷を負っている時なのでございます。……お心当たりはおありでしょう」


疑問形ではなく、断言にも似た言い方に、小さく頷く。
心当たりはひとつしかなくて、それが答えだというのはわかっていた。


「おばあ様を失い、この辺りを彷徨っていたひかり様を見つけたのは私でございます。この時にはまだ、私の声が聞こえるかどうかはわかりませんでした。しかし、ひかり様は私の声を聞き、雨天様に会い、この屋敷に足を踏み入れられた」

「うん……」

「そうしてここにやって来た方を我々はお客様としてもてなし、甘味を味わっていただくひとときでお客様の傷ついた心を癒やし、お帰りになっていただきます」

「でも、私……昨日はどうやって帰ったのか覚えてないんだけど……」

「はい、そうでなければ困るのです」

「どういうこと?」

「心の傷が癒えた者は、必ずここで眠ってしまいます。そして、普通ならそのままお客様が本来あるべき場所に自力で帰られるのですが、人間だけはそうはいかないのです」

「うん? 人間だけは?」

「ああ、それについてはまたあとでご説明いたしますので、先にひかり様のことをお話してもよろしいですか?」


コンくんが眉を下げて微笑んだから、私は慌てて「うん」と返事をした。