金沢駅の東口から乗ったバスを降りると、目の前に広がる風景に、懐かしさが混じったような寂しさを抱いた。
同時に、涙が込み上げてきそうになり、それを抑えるように唇を噛みしめて息を吐く。


空から落ちてくる無数の雫が、アスファルトを叩いている。
舗装された道はそれをはじき返し、互いが自分自身の居場所を譲るまいとしているようにも見えた。


頭上で広がる傘は、白い生地に淡いカラーのカラフルなスイートピーがちりばめられていて、どんよりとした空を隠してくれる。
ついでに、泣きそうな顔も隠すように、少しだけ低い位置で傘を差して視界を狭めた。


ザーザーともボタボタとも違う、形容しがたい音。
雨と傘が奏でる悪戯でうるさいリズムを、今日は不快に感じていた。


『あら、ひかりちゃん。こんな雨だって、なんだか賑やかでいいじゃない』


おばあちゃんなら、きっとニコニコ笑ってそんな風に言うのだろう。
予想は当たっている自信があるのに、おばあちゃんの優しい笑顔が脳裏に浮かんだのに……。
とても虚しい。


その理由はひとつしかなくて、それを解決する術はない。
心に負った傷が治る日が来ることはまだ想像もできなくて、幼い頃から何度も訪れた地の景観が胸を痛くする。


青空よりも明るい傘に隠れているのをいいことに、頬を伝う雫を拭わなかった。
雨粒と涙が混じったそれは、唇に触れるたびにしょっぱさを感じさせた――。