急いでシャワーを浴びて、お気に入りのワンピースに着替え、サッとメイクをした。
それから、最低限の荷物をバッグに詰め、玄関で出番を待っていた傘を持って、おばあちゃん家を出た。


大通りに出て最初に見える、コンビニの前。
そこにあるバス停が、最寄りの停留所だ。


おばあちゃん家に泊まりに来る時は、家の前かここでおばあちゃんが待っていてくれた。
滞在中に何度も利用するから、おばあちゃんの顔見知りの運転手さんに紹介されたこともある。


バスに揺られて、約十五分。
昨夜も降りたはずの『橋場町(はしばちょう)』の手前で降車ボタンを押し、料金を支払ってからバスを降りた。


昨日のことは、やっぱりよく思い出せない。
それなのに、確かに〝ここに来た〟という確信が消えない。


夜の街並みが、記憶に刻まれている。
楽しそうな声を聞きながら、路地裏に逃げたような気がする。


その時とは違って、今は外国人客や浴衣や着物を纏った観光客で賑わっているけれど……。
夜にここを訪れたことがないはずの私の記憶には、夜のひがし茶屋街の風景が残っていた。


ひがし茶屋街は、そんなに広いわけじゃない。
子どもの頃はとても広く感じたけれど、中学生になった頃にはそんなに苦になるような距離じゃなかった。


石畳も格子戸も、古い街並みならではの美しさを彩っている。
おばあちゃんとここに来ると、いつもワクワクしていた。