東京駅から、新幹線かがやきでおよそ二時間半。


金沢駅前の有名な『鼓門(つづみもん)』は、アメリカの旅行雑誌のweb版で『世界で最も美しい駅』のひとつに選ばれたのだとか。
『おもてなしドーム』とともに旅行客を出迎えてくれるそれらを前にすると、いつも美術館の一部でも見ているような気分になる。


前回ここを訪れたのは、まだ一ヶ月ほど前のこと。


毎年、夏休みや冬休みには、ひとり暮らしをしているおばあちゃんの家に遊びに来ることが恒例になっていた。
今年のゴールデンウィークの頃にも、『夏休みに行くからね!』なんて電話で話し、おばあちゃんはいつもと同じように『いつでもいらっしゃい』と優しく返してくれた。


だから……。
まだ夏休み前の六月下旬、金沢に住んでいる大好きなおばあちゃんの元に来る理由が、おばあちゃんのお葬式に参列するため――なんて、あの頃の私は想像もしていなかった。


私は生まれた時から関東に住んでいたから、金沢に住んでいたことはないし、友人だっていない。
思い出と言えば、おばあちゃんと過ごした日々のことばかり。
だけど、もうおばあちゃんはいなくて、目的地であるおばあちゃんの家にも誰もいない。


『四十九日が過ぎたら、あの家は引き払うことにしたから』


それでも、私はどうしてもここに来たくなって……。
いないはずのおばあちゃんに会いに来るような気持ちを抱え、そう言った父が貸してくれた鍵を握りしめてこの地に降り立った。