バタバタを動き回るひかりは、この屋敷にいたとき同様、実によく働いていた。


「あっ、ひかり様! 危ないですよ!」


ときには、調理場で職人とぶつかりそうになったり、包む菓子を間違えたりと失敗もあったが、めげずに真剣に役目を果たしているようだった。
コンは、そんな彼女の姿に一喜一憂し、ハラハラしたり笑ったりと忙しそうだ。


「今のお客様にとても喜んでいただけてよかったですねぇ、ひかり様!」


独り言も多く、そのうち一切振り向かなくなったため、コンは傍に私がいることを忘れているのかもしれない。
けれど、嬉しそうな姿を見ていると、私まで胸の奥が温かくなった。


「今年の夏は色々ありましたねぇ」


ずっと池を覗き込んでいたコンが、不意にしみじみと呟いた。


「なんだか、もう随分と前のことのように思えます」

「ああ、そうだな」


ひかりが去ってから、まだひとつの季節を超えただけ。
にもかかわらず、彼女がここにいたのはもう何十年も前のことのように思える。


「ひかり様が幸せそうでよかったです。このままずっと、笑っていてくださるといいですねぇ」

「きっと、大丈夫だ。ひかりはもう、この屋敷に来た頃とは違うのだから」

「はい」


コンは頬を綻ばせて大きく頷き、再び池に視線を戻す。
積もった雪に太陽の光が反射して眩しいが、コンは相変わらずひかりに夢中で、そんなことは気にしていないようだった。