このお茶屋敷において、甘味を作るのは神様だと決まっている。
神使はあくまで神の補佐として働き、決して前に出ることは許されない。


私が先代からこの役割を引き継ぐずっとずっと前からあるらしい、この屋敷のしきたりなのだ。
しかし、それはあくまで〝お客様にお出しする甘味〟に対するしきたりである。


「……やはりいけませんよね。申し訳ございません」


ところが、ギンは聞き入れてもらえない願いだと思ったようで、肩を落としながらも笑った。


「今のは忘れてくださいませ。なにか他の願いを考え直します」

「待て待て」


勝手に思い込むギンに苦笑し、小さな頭を撫でる。


「私とコンが食べる分ならなにも問題はない。構わないよ」

「いいのですか?」


目を真ん丸にしたギンが、みるみるうちに満面に笑みを広げていく。


「ああ、もちろんだ。お前の考案したという甘味を食べられるのがとても楽しみだよ。早速、明日のおやつの甘味を作ってみるといい」

「は、はいっ! ありがとうございます!」


今にも飛び跳ねそうなほど喜ぶギンに、もう一度「とても楽しみだ」と笑いかける。


「精一杯頑張ります! 今夜はお台所を使ってもよろしいでしょうか」


ギンの意気込みは相当で、どうやら徹夜する勢いのようだ。


「構わないよ。ただし、役目をきちんと果たすことを忘れないように」

「もちろんでございます!」


大きく頷いたギンは、珍しく落ち着きがなかったが、それだけ喜びが大きいのだと伝わってくる。


「さて、コンはどうする?」


一方、毎年我先にと願いを口にするコンが無言でいることを怪訝に思い、左隣にいるコンを見た。
すると、コンはなにか真剣に考え込んでいるようだった。