「雨天様、ここは私が」

「当たり前だ」


どうやらこの男性は、〝ウテン〟というらしい。
変わった名前だな、と思った直後、彼が振り返った。


「ひかり、ゆるりと休まれよ」

「え?」


私、名前言ったっけ?


その疑問の答えを探す私を余所に、ウテンと呼ばれている男性は男の子に視線を戻して「コン」と口にした。
男の子の名前が〝コン〟ということは、彼の言葉通りに取るのなら〝私を呼んだ〟ということになるけれど、その意味はやっぱりよくわからない。


「はーい! 雨天様、ご案内はコンにお任せくださいませ。お台所ではギンが待機しております」


男の子が胸を張るように元気よく返事をすると、男性は銀色の髪をふわりと揺らして私を一瞥し、廊下の奥に姿を消してしまった。


「さぁさ、お客様。今宵の雨は冷えますゆえ、中へどうぞ。ご案内させていただきましたら、すぐに温かいお茶をお持ちいたします」


ペコリと頭を下げる姿は可愛らしいけれど、子どもだとは思えないくらいに丁寧で、言葉遣いにも所作にも目を見張ってしまう。
靴を脱いでその子の背中を追う私は、どこに連れて行かれるのかわからないまま長い廊下を歩きながら、自分が置かれている状況を把握しようと努めていた。