「ギンは……?」


慌てて隣を見れば、知らない少年がこちらを見ていた。
けれど、私はこの匂いを知っている。
懐かしくて嗅ぎ慣れた、ずっとずっと一緒にいた匂い。


「コン……?」

「ギンッ……!」


着物を着た小さな少年も、すぐに私がコンだと気づいた。
生まれるずっとずっと前から一緒にいるのだ。
わからないはずがない。


ふたりで抱き合って声を上げて泣いた。
わんわんと叫ぶように泣いた。


「コンに、ギンか。よい名前だ」


程なくして、優しい声の青年が瞳をたわませた。


「あなたは……?」

「私の名は雨天。ひがし茶屋街のこの屋敷に棲む、雨の神様だよ」


銀髪の美しい青年が笑う。
初めて見た神様とは全然違ったけれど、私は一目でこの神様を気に入った。
母のような、温かくて優しい匂いがしたからに違いない。


「今日からよろしく、コン、ギン。お前たちと私はずっと一緒だ」


嬉しかった。とても嬉しかった。
ギンとずっと一緒にいられることも、雨天様にお仕えできることも。


神様は言った。
母も言った。
『ふたりで一緒なら大丈夫』と。


今日から三人になった。
ふたりで一緒なら大丈夫。
それなら、三人で一緒ならきっともっと大丈夫だ。
もうなにも怖くない。


今宵の空には、月も星も見えない。
雪が降る凍てつくような夜だけれど、雨天様の銀の髪は月よりもキラキラと輝いていた――。


番外編 一【完】