「……子狐か。人間にやられたか」


遠くの方で誰かの声が聞こえた。
優しくて温かくて、まるで私に初めて話しかけてきた神様のような声だった。


「二匹とも息絶えたか……。もう肉体と魂が離れているな」


私は助からないとわかっていた。
せめてギンだけは助かってほしかったのに、もう息がないと誰かが言う。


母との約束を守れなかった。
痛い体よりもずっと、心が痛かった。


「子狐、私の声が聞こえるか」


誰かが私に話しかけた。
優しくて温かくて、心地好い声だった。


「聞こえ……ます……」

「このまま消えてしまうか、私の神使となって仕えるか、どちらがよい?」

「ふたりで……いっしょでも、いいですか……」


大切なのは、ギンのこと。
ふたりで一緒でもいいか、確かめなくてはいけない。
私はギンの兄なのだから、弟を守らなくてはいけないのだ。


「もちろんだ。双子の子狐の神使とは、毎日が楽しくなりそうだ」


誰かの嬉しそうな声が聞こえると、霞む視界に大きな手が翳された。
私の体を撫でる手は温かく、まるで大好きな母に包み込まれているようだった。


「さぁ、お前たちは今夜から私の神使だ。このお茶屋敷のために、しっかりと仕えておくれ」


柔らかな光に包まれた体からは、みるみるうちに痛みが消えていく。
程なくして目を開けると、銀色の髪を靡かせる青年が立っていた。