それから幾月の日が過ぎ去った。
寒かった冬が終わり、暖かな春が来て、厳しい夏と穏やかな秋。そして、また雪が降る冬がやって来た。
 

あるとき、ギンが風邪をひいた。
食欲もなくなり、まるで母の最期のときのように弱っていく。
ふたりで一緒なら大丈夫。けれど、ひとりになってしまったら、大丈夫ではない。


怖くて不安で、ギンが食べられるものを探しに行こうと街へ降りた。
母がいつも『絶対に街へ下りてはいけないよ』と言っていたけれど、雪が積もる山に食べるものはなく、仕方がなかったのだ。


小さな洞穴にギンを置いて走り、着いた先は城下町。
知らない場所は、怖くて怖くて仕方がなかった。


けれど、私が食べ物を持って帰らなければ、ギンの風邪が治らない。
人目を避けて川沿いを進み、ようやく見つけたのは果実の欠片。


もうずっと前に母が持って帰ってきてくれた果実は、とてもとてもおいしかった。
きっと、これを食べればギンは元気になるに違いない。


グーグーとなる腹に力を込め、たったひとかけらの果実をくわえた。
雪に埋もれた草むらに潜んでいると、たくさんの二本足の生き物が目の前を通りすぎていく。


大きなかごを持った者たちが、長い行列を為してぞろぞろと歩いている。
あれはきっと、母が話していた人間というものに違いない。
こっそり隠れて、じっとしていれば、いつか道の向こうに戻れるはず。


そう思って待っていると、どこからかギンの匂いが近づいてきた。
ハッとした私の視線の先には、フラフラと歩くギンがいる。