「まぁまぁ! 雨天(うてん)様、お客様をお連れになったのですね! 今宵はもう店じまいかと思っておりましたのに!」


そんな声とともに、薄暗い玄関の片隅にあったロウソクの火が消え、代わりに玄関先がパッと明るくなった。
控えめだった照明が、周囲をはっきりと見せてくれる。


「わざとらしいぞ、コン」


どこか不機嫌そうに返した男性の向こう側には、十歳にも満たないような淡い栗色のふわふわの髪の男の子がいた。
男の子は私を見てニコニコと笑うと、「ようこそいらっしゃいました」と頭を深々と下げた。


「……コン」


慌てて会釈をしようとしたけれど、男性の声が先に落ち、倒しかけた上半身が止まってしまう。


「そんな顔しないでくださいよ! 私がお呼びしたって、雨天様のお力で突っ撥ねてしまえばこの屋敷には入れません。それは、雨天様が一番ご存知ではありませんか!」

「うるさい」


私の目の前で繰り広げられる会話に、いまいちついていけなかった。
言葉の意味はわかるけれど、その内容はちっとも理解できなかったから。


それでも、口を挟めるような空気じゃなくて、私は煌々とした玄関先でふたりの会話の行方を待つことしかできない。
そうしてしばらくこのまま待機することを覚悟した私を余所に、ふたりの会話は長引かなかった。