「あのね、雨天様……」


震えそうな声で切り出した私に、雨天様は笑みを浮かべているだけだった。
今になって言いたいことが溢れてくるような気がしたけれど、すべてを伝えられる時間なんて私にはもう残されていない。
だから、溢れる想いの中からたったひとつだけを掬い取った。


「私、ここに来るまでよりもずっとずっと、雨が大好きになったよ」


視界が歪んでいくのは、きっと込み上げてくる熱のせい。
だけど、今だけは全身を包む光のせいにしよう。


「ひかり」


ぼやけていく瞳の中で、雨天様がとても嬉しそうに破顔した。
それはまるで、雨上がりの空に架かる、美しく鮮やかな七色の虹のように。


「幸せであれ。ひかりの人生は、まだ始まったばかりだ」


優しい声音で紡がれた、神様の想い。
それが鼓膜をそっと揺さぶった直後、全身が柔らかな温もりに包まれて、私の意思に反して意識がゆっくりと遠退いていった。


『あなたの未来に幸福の縁がありますように』


その最中、誰かが私の耳元で、そっと囁いたような気がした――。