スズランの花を崩さないように、そっと菓子楊枝を差して、少しだけ割ってみる。
中には、綺麗なこしあんが入っていて、淡い緑やスズランの花と対照的な色を目に焼きつけるように見つめたあと、ゆっくりと口に運んだ。


そっと舌に触れたのは、滑らかな感触。
丁寧に漉されたことがわかるそれを時間を掛けて味わっていると、雨天様とギンくんが丹精込めて作っている姿が脳裏に浮かんだ。


ここに初めて足を踏み入れた日。
雨天様の正体を聞き、コンくんとギンくんの変身を目の当たりにした時。


色々な話を聞いて、家事をして。
ありふれた日常にも思えそうなほどの中、雨天様たちと一緒にお客様をお迎えしたこと。


ひと口食べ進めるたびに、このお屋敷での記憶が蘇ってくる。
できるだけ時間を掛けたいけれど、小さな上生菓子ではそれは叶いそうにない。


「すごくおいしかった」


「ごちそうさまでした」と言った声は、少しだけ小さくなってしまった。
涙をこらえて顔を上げると、優しい眼差しで私を見つめている雨天様と目が合った。


「お別れだ、ひかり」


その言葉でハッとして自分自身を見下ろせば、全身が光っていることに気づいた。
これまでに何度も見てきたから、このあとどうなるのかはもうわかっている。