「すごく嬉しくて、本当に大切にしてたんだ。でもね、その次の年の夏休みに失くしちゃったの……」

「失くしたのは、このひがし茶屋街だったのだろう」


私の言葉に、雨天様は確信を持ったような口調を返してきた。
コクリと首を縦に振り、傘をそっと撫でる。


ひがし茶屋街で迷子になった時、心細さをごまかすようにこの傘をしっかりと握っていた。
だけど、誰かに道を教えてもらったあと、きっと安心感から無意識のうちに傘の柄から手を放してしまったんだろう。


そして、それを拾い、今日まで大切に預かってくれていた人がいた。
今、私の目の前に……。


「あの時、私に道を教えてくれたのは雨天様だったんだね」

「どうやら、そのようだな」


もう確認する必要を感じていなかった私に、雨天様がふわりと破顔した。
懐かしそうな表情で、口が開かれる。


「あの時のことはずっと覚えていたが、まさかひかりだとは思いもしなかったよ」

「私も、ここに失くした傘があるなんて思いもしなかった」


十五年もの時間を、ずっとここで待ってくれていた。
神様と、可愛いふたりの神使のもとで。
それはまるで、私たちの縁を結んでくれようとしていたかのように思えた。