「その傘、私の……」

「え?」


雨天様が、ゆっくりと目を見張った。
視線が落とされ、手元の傘と私を交互に見ている。


特別珍しいデザインじゃないし、似たようなものならたくさんあるとも思う。
まだ半信半疑だったけれど、雨天様に歩み寄りながら確信が強くなっていくのがわかった。


雨天様の手から、傘を受け取る。
裏側に付いている小さなタグを確認した直後、懐かしい字が視界に飛び込んできて胸が詰まり、思わず泣きそうになった。


「やっぱり……」


丁寧な文字が記しているのは、【さくらばひかり】という名前。
これを書いてくれたのがおばあちゃんだということは、十五年近く経った今でもちゃんと覚えていた。


「こんなところに名前が書いてあったなんて、今まで気づかなかった……」


傘には、ネームタグが付いている。
だけど、わざわざメーカー名が記されたタグの裏に書いてあるのは、おばあちゃんがうっかり間違ってしまったから。


おばあちゃんは、子育てしていた頃、服やバッグの洗濯表示のタグに子どもたちの名前を書いていたらしい。
その癖で、こんなところに書いてしまうという失敗をしたおばあちゃんに、私は膨れっ面で抗議をした。