「まったく、なぜ今日に限って全部干したのだ」

「というか、どうしてこんなにあるの?」

「猪俣様は、和傘を作るのが趣味でな。よく手作りの傘を贈ってくれるのだ」


猪俣さんの意外な趣味の話を聞いて、思わず手にした傘をまじまじと見つめてしまった。
高級品にしか見えないそれは、趣味で作ったというのが信じられないくらいのクオリティーだった。


「使い切れないほどあるから、時々こうしてすべての傘を干しておくのだ」


色とりどりの和柄は、目を楽しませてくれる。
ザッと十本以上はあった和傘の最後の一本を閉じたあと、少し離れた場所にある傘が視界に入った。


もしかしたら、風に押されてしまったのかもしれない。
そんな風に考えた時、その一本だけ和傘じゃないことに気づいた。


「ん? ああ、あの傘まで出していたのか」


淡い水色に、白いスズラン。
どこかで見たような気がして、雨天様が手に取った傘から目が離せない。


「それって、子ども用の傘だよね?」

「ああ、そのようだな。わけあって、たまたま私が預かることになったのだ」


ぶわりと、背筋が粟立つような感覚が全身に走る。
それを感じながら、ゆっくりと唇を動かした。