それからは、ひと言も交わさずにセミの鳴き声を浴びていた。
本当は言いたいことがたくさんあったけれど、どれも言葉にする必要はないほど、もう不安はなかったから。


「そろそろ戻ろうか」

「うん……」


雨天様から切り出されるのを予感して身構えていたのに、いざお屋敷に戻る時間になるとまた寂しさが強くなる。
つい声は小さくなったけれど、なんとか笑顔で歩き出せた。


随分と奥の方まで来てしまっていたから、お屋敷に戻るには少し時間が掛かる。
ただ、それでもお互いに言葉は交わさなかった。


刻一刻と、太陽が傾いていく。
肩を並べて歩き、玄関が見えて来た頃、雨天様が「そういえば」と口にした。


「結局、なぜひかりがここに足を踏み入れることができたのか、わからずじまいだったな」

「あっ……」

「コンにも調べさせていたのだが、私もコンもその答えを見つけることができなかった」

「じゃあ、たまたまだった、とか?」

「ここに来るまでにいくつものきっかけが必要ではあるから、そういった意味では偶然が重なったとは言えるであろう。だが、その前提として、ここに深いゆかりが必要なのだ」

会話を交わしながら、首をさらに捻ってしまった。