「頑張る、か……。まぁ、来年には就活を始めなきゃいけないしね」

「ん? ……ああ、就職活動というやつか」

「うん、そう。就活は憂鬱だけど、社会人になるのは嫌じゃないし、頑張らなきゃとは思ってるんだけど……」


そこで言葉とともに足を止めると、隣を歩いていた雨天様も立ち止まった。
少し待ってもなにも言わない私に、「どうした?」と優しい声が届く。


「私、夢とか目標がないんだ……」


兄と姉はとても優秀で、難関中学を受験して一流大学に入り、それぞれ誰もが知っている外資系の有名企業に就職した。
反して私は、中学受験に失敗し、高校もごく普通の県立に通い、大学だってそこそこの偏差値のところに入学するのが精一杯だった。


「友達の中には私と同じように『目標がない』って言ってる子もいるんだけど、うちはお兄ちゃんとお姉ちゃんが優秀でね。私だけ出来が悪かったの……」


両親の期待を寄せられていた兄たちとは違い、私は勉強に関しては早々に見切りをつけられていたことは知っている。
期待に満ちた瞳を向けられなくなった時には、子ども心にそれなりに傷ついた。


「高校も大学も普通よりもいいところには行けたけど、第一志望には届かなくて……。両親のことは、今までに何度もがっかりさせたと思う」


だからと言って、両親から特別ひどい扱いをされたり、罵られたりしたことはないけれど……。
大学進学を機に家を出るまではずっと、両親と顔を合わせるたびに自身の不甲斐なさを申し訳なく思い、息が詰まってしまいそうだった。