「……そうか」


たぶん、雨天様は心を読んだわけじゃないと思う。
なんとなくだけれどそう感じていると、少しして困り顔で微笑まれた。


「私たちと長く一緒にいた分、ひかりにとっては後ろ髪引かれるような気持ちもあるだろう」


〝ひかりにとっては〟と強調されたような気がして、笑みを繕おうとした口元が歪みそうになった。
私だけなんだ、という現実がますます寂しさを増幅させる。


「布団やちょうどよい湯加減の風呂は、気持ちがよいと思うだろう?」

「え?」


突然なんの話?
私がそう訊く前に、雨天様が再びゆっくりと歩き出した。


「自分自身にとって心地好いものというのは、心と体を慰め、癒やしてくれる。それは、とても大切なことだ」


話の意図が見えないなりに控えめに頷くと、その曖昧な気持ちを見透かしたように苦笑されてしまった。
なんとなくいたたまれなくなった私に、雨天様は足を止めずにさらに奥に向かっていく。


「だがな、どんなに心地好くても、そこにずっといるわけにはいかないのだ」


そのあとを追いながら、雨天様がなにを言おうとしているのかを悟る。
同時に、胸の奥がキュッと締めつけられた。