「今日はよい天気だな」

「そうだね」


庭に出て五分ほど歩いたところで足を止めた雨天様は、穏やかな顔つきで空を仰いだ。
高い空には、絵に描いたような青色に、真っ白な入道雲。


どうして今日に限って、こんなにいい天気なんだろう。
雨さえ降っていれば傘を差す口実ができて、現実に追いつかない心と表情を隠せたかもしれないのに……。


眩しそうに細められた瞳は、今なにを考えているのかわからないけれど、私がこんな風になってもいつもと同じように見える。
寂しいのも不安なのも私だけなんだ、と気づかされてしまった。


雨天様たちにとっては、私はお客様のうちのひとり。
他のお客様たちよりも長く過ごしたからといって、別れを特別惜しむような気持ちになったりはしないのかもしれない。


それが普通で、これでいいはず。
自分自身に言い聞かせている言葉とは裏腹に、心はちっともそんな風に思えなかった。


「ひかりは、ここを去るのが不安か?」


不意に、雨天様が私を見つめた。
素直に答えるべきなのかわからなくて、グッと詰まる。


真っ直ぐな双眸は、きっと私の本心なんてお見通しなんだろうけれど……。
正直な気持ちを口にしてしまったら、今よりももっと心が置いてきぼりになるような気がしたから。