「おいしい……」


色々な感情を噛みしめるように、静かな客間に小さな声が響く。


「ああ……。でも……できることなら、私が彼女を幸せにしたかったなぁ……」


そして、消えた言葉を追うように、切ない想いが溶けていった。
悲しみも寂しさも、恋人への愛も幸せだった日々の思い出も、そこにはすべてが込められているような気がした。


「お客様、ご縁というのは不思議なもので、来世でもまた巡り合う愛もあるものです。ですから、どうかそんなお顔をなさらないでください」


まるで、心に寄り添うように紡がれた言葉。
私は来世なんてわからないけれど、その言葉通りになることを願わずにはいられない。


「じゃあ、また彼女と……それから、あいつとも会えたらいいなぁ」


お客様がそっと瞳を細めた時、全身が光り始めた。
もう何度も見た光景だけれど、こうして見るといつもホッとする。


このお客様もあるべき場所に帰ることができるんだ、と。
そして同時に、自身のこれからのことを考えて、ひとり密かに不安になってしまう。


そうこうしているうちに、「ありがとうございました」という言葉を残し、お客様は姿を消してしまった。