「あぁっ……!」


嗚咽混じりに泣き出したお客様は、天井を仰ぎながら声を押し殺すようにしていた。
抱え切れないほどの悲しみが涙になるのを見ているだけで、私の瞳からも同じように大粒の雫が零れていく。


「……っ! どうして気づかなかったんだろう……」


しばらく経ってから、お客様は掠れた声を絞り出すようにごちた。
そっと雨天様に向き直ったお客様が、涙で濡れた表情を和らげていった。


「あいつも、彼女も……そういう優しい人でした……」


微かに笑みを浮かべたお客様に、雨天様もそっと笑みを零したあと、ゆっくりと頷いた。


「ありがとうございます。あなたが教えてくださらなかったら、私は大切なことを忘れたままだったかもしれません……」

「いいえ。私はなにもしておりません」


なんでもないと言うように返した雨天様に、お客様が小さく笑う。
それから、おはぎの存在を思い出したかのように視線を落とし、おずおずと開口した。


「……これ、いただいてもいいですか?」

「もちろんでございます。お客様のためにご用意させていただいたものですから」


お客様は「いただきます」と言ってから、おはぎを口に運んだ。