「ホールのケーキを予約してたらしいんだ。ケーキなんて孫が遊びに来る時くらいしか買わないのに、今年はダイヤモンド婚式だったから早くから予約してたんだとさ」
「奥様はきっと、猪俣様とお祝いしたかったのでしょう」
「気持ちは嬉しいが、それを取りに行くために倒れられたら、こっちの寿命が縮むよ」
コンくんの言葉に、猪俣さんが苦笑を零す。
呆れたような物言いだけれど、奥さんを大切にしているのは表情を見ればわかった。
「別にケーキもプレゼントもいらないが、あいつがいなくなるのは勘弁だ。この歳で情けないが、あいつにはまだまだ長生きしてもらわないと困るからさ」
「でしたら、早くお見舞いに行って差し上げてください。我々はもうお暇しますので」
「コンくんの言う通りです。きっと、奥さんは猪俣さんが来られるのを待ってるはずですから」
「いや、それなら午後から――」
「それはいけませんよ!」
「そんなのダメですよ!」
猪俣さんの話を遮った私たちは、同じようなセリフを口にしていて、思わずまた顔を見合わせていた。
目配せで察し合い、再び猪俣さんに視線を戻す。
「わかったよ。この大福を持って行けば、あいつもすぐに元気になるだろうしな」
程なくして、フッと笑った猪俣さんは、二種類の大福を見下ろして頷いた。
奥さんが無事に退院したと聞いたのは、翌々日に品物を取りに来た時だった――。
「奥様はきっと、猪俣様とお祝いしたかったのでしょう」
「気持ちは嬉しいが、それを取りに行くために倒れられたら、こっちの寿命が縮むよ」
コンくんの言葉に、猪俣さんが苦笑を零す。
呆れたような物言いだけれど、奥さんを大切にしているのは表情を見ればわかった。
「別にケーキもプレゼントもいらないが、あいつがいなくなるのは勘弁だ。この歳で情けないが、あいつにはまだまだ長生きしてもらわないと困るからさ」
「でしたら、早くお見舞いに行って差し上げてください。我々はもうお暇しますので」
「コンくんの言う通りです。きっと、奥さんは猪俣さんが来られるのを待ってるはずですから」
「いや、それなら午後から――」
「それはいけませんよ!」
「そんなのダメですよ!」
猪俣さんの話を遮った私たちは、同じようなセリフを口にしていて、思わずまた顔を見合わせていた。
目配せで察し合い、再び猪俣さんに視線を戻す。
「わかったよ。この大福を持って行けば、あいつもすぐに元気になるだろうしな」
程なくして、フッと笑った猪俣さんは、二種類の大福を見下ろして頷いた。
奥さんが無事に退院したと聞いたのは、翌々日に品物を取りに来た時だった――。