「ひかり」

「あ、さっきのは忘れて! ちゃんとわかってるから」

「ああ。だが、明日は小豆を炊くところを見せてやろう」

「いいの?」

「作り方を教えてやることは叶えてやれないが、目の前で作るところでも見れば、少しは気が晴れるかもしれないだろう」

「うん。ありがとう」


気が晴れるかはわからないけれど、雨天様の気持ちは嬉しかった。
だけど、家事はきちんとこなしたかったし、コンくんに迷惑をかけたくもなかったから、明日は少しだけ早起きをして掃除をしておこう。


「よい心がけだな」

「また読んだの?」

「なにを言っておる。今のは声に出ておったぞ」

「え? 嘘……」

「嘘だ」

「……もうっ! 雨天様って、時々意地悪だよね」


からかわれたことに気づいて唇を尖らせたけれど、雨天様はなぜか楽しそうにしている。
クスクスと笑う姿は、普通の青年と変わらないような気がして、こうして話していると雨天様が神様だってことを忘れてしまいそうだった。


だけど……。
雨天様たちは、人間じゃない。


この地に棲む雨の神様と、双子の狐の神使。
人間である私は、ずっとここにいることはできない。