「ここには、頻繁に新しいお客様がやって来る。賑やかなコンと、修行好きなギンがいる。雨が上がれば、こうして水たまりの中のひがし茶屋街を見ることができる」


ようやく顔を上げた私は、私を見つめていた雨天様と視線が交わった。
優しく弧を描く瞳が、なにを言いたいのかわかる。


「今はもう、寂しさを感じる余裕も、悲しみに暮れる時間もない。私は、賑やかな日々を送ることに幸福を感じ、先代の意志とこの屋敷を守っていくことに誇りを持っているのだ」


それでも、最後まで黙っていたくて、無言のまま雨天様を見つめていた。


「だから、私はここから出られないことを嫌だと感じたことは一度もない。きっと、これからもそうであろうな」

「うん……」


きっと、それが雨天様の本心。
そう思った時、頬に雫が落ちて来た。


「ああ、そろそろまた降らせることになりそうだ」


ひとり言のように言った雨天様の言葉通り、空はいつの間にか再び雨雲を呼び戻していて、パラパラと雨粒が降って来た。


「晴れ間をあまり見せてやれなくて、すまないな……」


傘を差そうとした時にそんなことを言われて、私は少し考えた末にニッコリと笑った。