僕は、あの時の父さんの笑顔が、今も忘れられないんだ。
虐待を始める日まで、父さんはIT企業に勤める真面目な自慢の親だった。もうすぐ会社で出世するのが約束されていて、本当に、家でも仕事でも、誰よりも信頼された才能のある人だった。それなのに、どうしてあんなことになってしまったのか……。
叶わないことを夢見たって無駄なことくらい、とっくの党に知っていた。それでも、僕はもう一度だけ、大好きなあの父さんの笑顔が見たい。たったの一度だけでいいから……。
――ガンッ!
突如、物が落ちたような音が聞こえて、僕は何かと思って、慌てて辺りを見回した。すると、先生が開きっぱなしだった病室のドアの近くに、僕のスマフォが落っこちていた。先生が戻ってきた時に渡そうと思い、僕はベッドから降りて、ドアのそばまで歩いた。しゃがみこんでスマフォを拾おうとすると、廊下から、甲高い女の喋り声が聞こえてきた。
「ねえ知ってるー? ここの病室の沙目島蓮見くんって、親に虐待されてたらしいわよ? 何でも、それが原因でモノクロームになっちゃったんだって!!」
「嘘っ!? 本当に? 気の毒ねー。モノクロームなんて今は確かな治療法も何も見つかってないから、移植手術しかないのに」
――移植?
内容が気になった僕は、聞いているのがバレないよう、急いでドアの後ろに隠れて、会話を盗み聞きした。
「本当よねー。まだ子供なのに目の移植をしろだなんて、この病院も酷いわよねー」
移植手術があるなんて、僕は聞いたこともなかった。入院し始めた時、僕は治療法はないって先生に説明された。それなのに、まさかそんな治療法があったなんて……。



