――そもそも、僕のことが本当に嫌いで育てる気もないのなら、治療費を払うことすらしないのではないのか。
病院(ここ)に来るまでの生活費だって、育てる気がないなら、一体何で払ったのか。
希望なんて持っていても、きっと意味なんかない。お金を払っているのだって、僕が逃げないようにするための保険なのかもしれない。そう思っても、僕は無意識のうちに、良い方向に考えてしまう。
もしかしたら、退院して家に帰った時には、僕を快く迎えて、抱きしめてくれるかもしれない。あるいは、今までのことを、泣きながら謝ってくれるかもしれない。
……そんなことあるわけないのに。
僕は、小さな時にリビングで見た写真立ての中に映っていた父親の笑顔が、今も忘れられないんだ。
膨らんだお腹を触りながら幸せそうに笑う女の人と、楽しそうに笑ってピースサインをするさんが、そこにはいた。
たぶん、あの女の人は僕の母親だ。そして、彼女のお腹の中には、恐らく生まれたばかりの僕がいた。
父さんは母さんの隣で、元気よく笑っていた。それが演技だったのか本当の笑顔だったのか、僕は知らない。でも、たとえ演技だとしても、父さんは、僕に虐待をするまでは、あんな風に、元気に笑ってたハズなんだ。だからきっと、何かきっかけさえあれば、僕にまた優しく笑いかけてくれるようになるんじゃないかって、そう思ってしまう自分がいる。だって僕は、父親の本当の笑顔を知っているから。この目で見て、覚えているから。
「あのね蓮見、お父さん、今度ね、会社の社長になれるかもしれないんだって!!」
昔、五歳の僕を抱きしめて、母さんはそう言った。
「しゃちょー?」
「そ! 一番偉い人ってことだよ? 本当に凄いよねー‼」
僕の頭を撫でて、母さんは嬉しそうに笑った。
「おい母さん……照れるからやめろよ」
それを聞いて、父さんは、恥ずかしそうに目尻を下げて笑った。
「どうして貴方? すごいことじゃない!! ねー蓮見?」
僕をギュウっと強く抱きしめて、母さんは言った。
「うん! すごいねパパ!!」
「ハハっ、そうか?」
父さんは僕に褒められると、照れたように頭を掻いて、嬉しそうに笑ったんだ。



