「……」
「今、何考えてる?」

「えっ」
 突然先生に話かけられ、僕は戸惑った。
「どうせ、お父さんのことでも考えてたんでしょ!! もう忘れな、あんな人‼ 君を入院させてるのは、もちろんその目の治療が一番だけど、虐待からの保護も兼ねてるんだから!! 君はあんな人のことなんか忘れて、パーっと人生楽しめばいいんだよ!!!」

「でも……っ!」
 あたかも僕を励ますかのように元気よくそう言った先生に、僕は頷くこともできなかった。
 吹っ切ればいいことも、あんな父親は忘れた方がいいことも、とっくの党に知っていた。
 それでも、僕は父さんを忘れることもできない。

「やっぱり、そう簡単には吹っ切れない?」
 首を傾げながら、先生は何か思いつめたような様子で、心配そうに僕の顔を覗き込んだ。
「……はい」
「はあー、それもそうよね! さっ、ご飯持ってくるわね!!」
 顔を伏せた僕を見てため息を吐くと、先生はまるで切り替えるかのように元気よくそう言葉を紡いで、病室を出ていった。

 忘れようと思っても、忘れられない。
 親は親とはよく言ったもので、僕は多分、あんな父親にも、何か希望を持っているのだと思う。最低な奴なのに。