モノクローム。それは、近年稀にみる目の病気らしい。目にできた怪我や汚れなどが原因で、一時的、あるいは永久的に視界から色彩感覚を奪われ、世界がまるでキャンパスに黒だけで色付けされたかのようにモノクロに見えると、そう伝えられている。治療法はなく、それどころか、日常での対処の仕方すらわかっていないかなり不鮮明な病気。

 十歳の時、僕は父さんのあの虐待のせいで、その病気を発症した。それ以来、俺は治療に専念するため、病院での生活を送っている。もう既に、病院で生活するようになってから、五年の月日が流れた。


「蓮見―、早く帰ってこい!! こっちはお前の治療費が高くて大変なんだよ!!病気を治す金がないなら、足の一本売るでも何でもして金を稼げ!!」
毒のある父さんの声が聞こえて、無造作にベッドに寝っ転がっていた僕は、慌てて起き上がった。病院(ここ)に父さんがいるわけもないのに。

「相っ変わらず、反射神経すごいねー」

 病室に入って来た黒髪の凛とした雰囲気の薫(かおる)先生は、呆れ気味にそういって、僕の頭を犬でも撫でるみたいに、ワシャワシャと撫でた。

「おはよ、蓮見君」
「……おはようございます」
 乱れた髪をてぐしで整えながら、僕は言った。

「さっき、君の携帯に留守電が入ってたみたいだから試しに流してみたんだけど、これはあまりに酷いね。実の父親が言ってるとはとても思えない」
 片手に持っていた僕のスマフォを白衣のポケットにしまってから、顔をゆがめながら、先生は言った。
「そういう人なんです、僕の父親は」
 髪を整えるのを止めて、真っ白に見える布団を一瞥しながら、吐き捨てるように僕は言った。
昔からそうだ。父さんは僕に、何一ついいものをくれない。ただただはらわたが煮えくり返にそうなほど不快な暴言と暴力だけを、父さんは与える。

 今のだってそうだ。
 スマフォのブルーライトが目に悪影響を及ぼしたら困るからとの理由で、僕は先生に携帯を預かって貰っていた。父さんはそれを知らないで、僕のスマフォに、さっきのようなまるで脅迫みたいな内容の留守電を何度も残して、僕や先生に絶えず不快感を味合わせている。