父さんは、僕が五歳になって間もない頃に、虐待を始めた。僕には、母さんと一緒にいた記憶が殆どない。

 物心つく前から、僕は父さんとこの二階建ての一軒家で暮らしていた。母さんは大方、僕みたいに父さんに殺されかけたり脅されたりするのが嫌で、逃げたんだと思う。まだ五歳にも満たない子供だった僕を、 自分の身代わりにして。

 母さんの身代わりになり下がった僕は、父さんに毎日のように物を投げられたり、あるいは体のあらゆるところを、蹴られたり殴られたりした。僕がどんなにやめてと叫んでも、父さんはやめるどころか、暴力と暴言を日に日にエスカレートさせた。

 誰かに教えて欲しい。なぁ……僕が何をしたんだよ。なんで僕がこんな目に遭わなきゃいけないんだ……。本当にお願いだから……誰か助けて。
泥にまみれていた顔を、僕は洗面所に行き、必死で洗った。

 ――ズキッ。
「痛っ⁉」
 突如、目が燃えるように痛んで、僕は、あまりの痛みに、床に倒れた。
 痛い。嫌だ嫌だ。こんな虐待なんかのせいで、心も体も壊れたくない。
「誰か……」
 掠れた声で呟く。
 そんなんで誰かが助けてくれるわけもないのに。
 神様がいるなら、頼むから早く、こんな地獄から解放して……。

「蓮見!! おい蓮見‼」
 消えそうな意識の中で僕が最期に聞いたのは、父さんがまた虐待をするために、必死で僕を呼ぶ声だった。


 クソ、本当に、地獄だな……。