――コンコン。
その日の夜、明希と名乗ったあの子供と幸味夜さんと一緒に家に帰った後、俺は二階のベランダに出て空を見上げていた。不意に、後ろにあった窓を誰かがノックしてきた。誰かと思って振り返ると、そこには幸味夜さんがいた。
「ここにいたのね、蓮」
窓を開けてベランダに入ってくると、幸味夜さんは、ふわっと俺の背中にブランケットを掛けてくれた。
「はい。……ありがとうございます」
「ん。いやー今日はごめんね? あんな蓮を試すようなこといって。……蓮がそばにいてくれ
る自信がなかったのよ」
目尻を下げて、幸味夜さんは、悲しそうにそう言葉を紡いだ。
「幸味夜さん……」
「本当に、ごめんね? ……昔ね、君みたいな子を助けられなかったことがあるの。それがあって、今も人助けをすると不安になるのよ。――彼を助けられなかったくせに。どうせヒーローみたいに助けようとしても、また失敗するんじゃないかって、そう思っちゃう自分がいるの」
悲しそうに、星が煌めく空を見ながら、幸味夜さんは言った。
「どうせ失敗するなら、そうなる前にいなくなって欲しいと思ったんだと思うわ。飛んだ意気地なしよね。本当にごめんなさい……」
俺に、幸味夜さんは深々と頭を下げてきた。
「なっ⁉ 顔を上げてください。そんなことがあったなら、言っちゃって当然ですよ」
頭を下げてきたのにびっくりした俺は、慌ててそう言って、幸味夜さんをフォローした。
「そ? 優しいのね蓮は」
顔を上げると、髪を耳にかけて、幸味夜さんはそう言葉を紡いだ。
「……そんなの初めて言われました」
目を見開き、俺は呆然と言った。
俺が、優しい……?
幸味夜さんのことも信じれない汚れたこの俺が?
幸味夜さんに言われた言葉を、俺は確かめるように、何度も頭の中で繰り返した。
「そ? 蓮くらい優しかったら誰かに言われてそうだけどね? 両親にも言われたことないの?」
「……」
思わず、俺は言葉に詰まった。



