「蓮見、さっさと飯を用意しろ!!」
いつもいつも、僕は父さんからのそんな怒号を聞いて、慌てて目を覚ます。
――今日も地獄が始まる。
そう思ってからすぐにその考えを無理矢理頭の隅に追いやって、僕は自分の部屋を出て、早足で階段を降り、ダイニングキッチンに向かった。
――バンッ!!
ドアを開けてその中に入ろうとした瞬間、僕は、父さんに思いっきり頬を叩かれた。
「起きるのが遅い!! いつもいつも、俺より先に起きるように言ってるだろう! さっさと飯の支度をしろ!」
「……」
僕は叩かれた頬を触りながら、父さんを無視してキッチンに行き、料理を始めた。
せっかちな父さんをこれ以上イライラさせないように、僕は急いでレンジで炒飯を温めて、食卓に運んだ。
しかし、次の瞬間、父さんは僕の顔に思いっきり炒飯を投げつけた。僕はとっさに、顔を片手で庇った。 庇った手の皮膚が炎で焼かれたみたいに熱かった。
でも、声はあげない。……いや、上げちゃダメなんだ。そんなことしたら、余計不機嫌にさせるとわかっているから。
「誰が飯を作れって言った? こんなありあわせの上手くもない飯を作る暇があるなら、近所の家から金を盗むか、コンビニで食べ物を盗んでこい!!」
「……っ」
どうしようもなく痛くて、その上理不尽すぎる言い分に殺意が湧いて、思わず叫び出したくなるのを我慢して、僕は無言で父さんを睨み付けた。
「クク、痛そうだな。俺が冷やしてやろうか?」
父さんはそんな僕と目が合うと、椅子から立ち上がり、醜悪の笑みを浮かべて、ゆっくりと近づいてきた。
「……いい。自分で冷やす」
嫌な予感がして、僕は後ずさりながら言った。
「遠慮するなよ。大丈夫だ。優しく冷やしてやるから。これが終わったら、ちゃんと物を盗みにいくんだぞ?」
そういい、父さんは口角を上げて、悪魔のように、けれど、本当に心の底から楽しそうに笑った。



