楽園が、僕らを待っている。

 
 泣き止んでから一時間ほどが経った頃、僕は幸味夜さんに手を引かれて、ファミレスに訪れていた。あの後、僕は服屋で普段着や寝巻を買ってもらった後、さらに靴屋でスニーカーを買ってもらった。それで今は、ファミレス(ここ)で休憩をしているところだ。

 ファミレスには、両足が義足の子供や、あるいは両目のあたりに包帯を巻いている子供なんかもいて、昨日訪れた商店街よりも、かなりひどい光景が広がっていた。

「ふー、けっこう買っちゃったねー」
 案内された四人席で、座ってなかった方の椅子に置いたいくつもの荷物を見ながら、幸味夜さんは言った。

「……はい。……あの、よかったんですか? 俺の物ばかり買っちゃって」
「もっちろん! これから生活する準備のために買い物に来たんだから、全然いいんだよ!」
 テーブルを挟んで目の前にいた幸味夜さんは、腕を上げて、やたらと上機嫌に言い放った。

「――どう? 蓮、この世界を見た感想は?」

「……なんていうか、怖いです。大人も子供も、すごい不気味ですし」
 小声で、僕は人に聞こえないように言った。
「うん、そうだろうね」
 紅茶を飲んでから、幸味夜さんはうんうんと、まるでその気持ちがわかるよとでも言いたげに頷いた。
「……あの、この世界は、一体何なんですか」
「そうだね。……平たく言うなら、ここは世界の裏側だよ」
「世界の……裏側?」
「そう。正確に言うなら、戦争をしていない日本や、あるいは海外で起きている子供への虐待やDVなどのありとあらゆる犯罪がまるで時が止まっているかのように、延々と続いている世界。現実世界から来た人は、そんな犯罪がいつまでもあることから、ここを【NOLOCK(ノーロック)】と呼ぶわ」

「NOLOCK……」

「――痛い! 痛いよお父さんっ!!!」

 そう呟いた直後、隣のテーブルから、そんな耳をつんざくような痛々しい叫び声が響き渡った。
 何かと思って隣を見ると、そこでは、五歳くらいの小さな子供が、父親と母親の手によってテーブルに押さえつけられ、涙を流していた。