「へー、いいじゃんいいじゃん!! 似合ってる!!」
僕に白のカットソーと黒の革ジャン、それにくすんだ緑のような色をしたチノパンを着せると、幸味夜さんは、得意げに笑った。
「……あの幸味夜さん、これ、何色ですか?」
チノパンを掴みながら、僕は首を傾げた。
「え? ああ、それ、カーキーだよ。またはオリーブ色ともいうのかな」
「カーキー……」
「そ。くすんだ緑色のこと。まあ平たくいえば、黒に近い緑色のことかなー。」
「そう……なんですか」
「そーそー。他に気になった服とか、色とかある?」
「じゃあ、これは……?」
海よりも濃い青のような色をしたジャケットを見て、僕は首を傾げた。
「それはネイビー、紺色。君、本当に色のこと全然覚えてないんだねー。モノクロームって生まれつきの病気じゃないんだし、治ったなら発症する前のこととか仮に忘れてても、すぐに思い出しそうだけどねー」
腕を組んで、幸味夜さんは考え込むように言った。
「確かに発症する前のことは色々覚えてますけど、……色のことよりも、嫌だったことの方が覚えてますから」
「……」
「すみません、失言でした。忘れてください」
幸味夜さんが黙ったのに気づくと、僕は慌ててそう言った。
「いや、……私こそごめん。察しが悪かったね」
「え、別に幸味夜さんが謝るようなことじゃ……」
「謝るようなことだよ。子供の考えがわからないなんて、親失格だからね」
「……っ!」
その言葉だけで、僕はまた胸が締め付けられた。
どうしようもなく嬉しくて、声が出なかった。
「蓮、ここは昔君がいた世界じゃないんだ。泣きたいときは泣いていい。笑いたい時は、思う存分笑っていいんだよ? 言いたいことがあったら、言っていいんだよ!!」
「ふぇ……っ! はい……っ!!」
僕は幸味夜さんの胸に顔を押し付けて、店の人やほかの客にバレないように、声を押し殺して泣いた。もうずっとずっと独りぼっちだと思っていたのに、僕は生まれて初めて、そうじゃないよって言われた気がした。
この人を、信じてみてもいいのかもしれない。愛想つかされてゴミのように捨てられるその日まで、――幸味夜さんとなら、生きてみてもいいのかもしれない。いや、……僕は幸味夜さんと、生きてみたいんだ。



