楽園が、僕らを待っている。


 まるで漫画の主人公のような、インパクトの強い銀色の瞳。肘まで伸びた灰色の髪の毛。
 明らかにこけた頬に、細くて華奢な手足。
 幸味夜さんが言っていた以上に、僕は顔だけでなく、体ですらも、“今にも死にそう”に見えた。こんな体の奴を、この世界の人々は一億円で買おうとしたのか……? そして、幸味夜さんも、こんな奴に、一億円以上の値打ちを付けて買い取ったのか……。
 そう思うと、僕はとても信じられなかった。


「それが君だよ。蓮、現実を受け入れな。受け入れて、強くなるの。そんな体で今まで生きてこれただけで、君は十分立派だよ。なんなら、一億円以上の価値がある。もっと自分に自信を持ちな」
 僕の頭を撫でて、幸味夜さんは、二カッと口元を綻ばせた。

「……はいっ」
 また、僕は泣きそうになった。
 ……ダメだ。優しさに、依存しそうになる。ずっと傍にいて欲しいと、そう思ってしまう。こんな汚れた奴と、ずっと一緒にいてくれるわけないのに。
家族なんてただの詭弁だ。嘘だ。


 逃げるのなら、今なのに……。
 後悔してからじゃ遅い。
 傷ついてからじゃ、遅いんだよ……。
 そう思っても、僕は幸味夜さんの頭を撫でる手を、振りほどくこともできなかった。