――パキッ。
「ん?」
突如、床が音を立てて、割れた。
――しまった。
「すっ、すみません!!」
「アハハ、謝んなくていいぞ! もうここは随分古いからなぁ……床なんて割れて当然なんだよ!!」
謝った僕を、商人は盛大に笑い飛ばした。
「ここ、一面宝石に囲まれているのね」
「ああ、死んだ嫁さんの趣味でな」
「……そう」
周りを見回しながら、幸味夜さんは言う。
幸味夜さんたちの会話を聞いて、僕はすぐに全てを理解した。
ここは壁が真っ白いんじゃない。壁も床もベッドも、全部、ガラス張りの宝石が埋め込まれているんだ。だからさっきガラスが割れて、音がしたんだ。
奥さん、随分変わった趣味の持ち主だったんだな……。他人事のように、僕はそう思った。
それと同時に、僕は、死んでも物を大切にされてる奥さんが羨ましいとも思った。
きっと僕は、父さんにそんな風に思われてない。父さんは今頃、僕がいなくなって清々してることだろう。まあ、お金のことで怒っている可能性もあるが。
「どうかした? 蓮」
「……いや、なんでもないです」
幸味夜さんにいわれ、僕は慌ててそう答えた。
幸味夜さんは、もし僕が死んだら、僕の物をどうするんだろう。家族だって言ってたけど、本当にそうなのか? 愛想つかされて捨てられる前に、逃げた方がいいんじゃないか?
「――ハッ」
誰にも聞こえないように、僕は小さく自分を嘲笑った。
何考えてんだ。逃げたってどうせ行くとこもないくせに。



