楽園が、僕らを待っている。



「出かけるよ、蓮!」
翌日。僕がベッドの近くに置きっぱなしにしていたトランクケースを掴むと、幸味夜さんは、ベッドの上に座っていた僕を一瞥して、そう元気よく言った。
「はっ、はい!」
 僕は慌ててベッドから降りると、駆け足で部屋を出た幸味夜さんについていった。

「キャキャキャキャ」

「足はいらないかーい?」

 人身売買が行われている街に行くと、すぐに幸味夜さんは辺りを見回して、何かを探し始めた。
「お譲さん、何を探してるんだい?」

 脚が片方義足になっていて、眼帯をしたおばあさんが言う。僕はその姿を見てるのが怖くて、慌てて幸味夜さんの後ろに隠れた。
「ちょっ、ちょっと蓮っ?」
「フフ、かわいい坊やだね。もしかして、この子の欲しいものを探してるのかい?」
「ええ、ちょっとこの子目が悪くてね、代替品を探していたのよ」
「ああ、それならこの町の奥に良い店があるよ。なんでもあらゆる瞳(め)のコレクションをしているそうだよ。坊やに合うのもきっとあるんじゃないかい?」
「そう。ありがとうおばあさん」
「あのっ、幸味夜さん、目を買うって、どうして……」
「決まってるでしょ。蓮の目を移植するの。私の家族になったからには、私がいるこの世界の全てを本物の目で見て、確かめてもらわなきゃ。――この世界で生きたいかどうかをね」
 そういって、幸味夜さんは妖しげに、色っぽく笑った。
 ――生きたいかどうかなんて、確かめるまでもない。僕の帰る場所なんて、もうこの人のところ以外、どこにもないんだから。
 それでも、移植をしてくれるのは本当に有難かったから、僕は敢えて何も言わずに、幸味夜さんの後を追った。

 おばあさんに言われて訪れた店は、真っ黒いコウモリの羽のような刺刺しい羽で装飾された【irou(あいろう)】という建物だった。中に入ると、そこには、瓶詰された左右の瞳が何十個も売られていた。