楽園が、僕らを待っている。


「うっ、あああああああ!!!!」
 手をもげるようない勢いで引っ張られた僕は、悲鳴を上げて体を起こした。

 するとそこは、ふかふかの純白のベッドの上だった。
 僕がいたのは、いかにも、高級そうで煌びやかな部屋だった。シャンデリアの照明、薔薇柄のドレッサー。他にも、ティーポット柄のカーテンや、パールのようなものがアクセントとして飾られたタンスなんかもある。  
  
「あ、気が付いた? おはよう。はい、一億円」
 ベッドの近くに座っていた女は、僕の方に振り向くと、自分の横に置いていた黒のトランクケースを僕に渡して、そうにべもなく言い放った。
「えっ」
 戸惑いながらもそれを受け取り、中を開けると、そこには、一万円札が十枚束になったものが、何十束も入っていた。

「うわ……」
 驚きの余り、声が漏れた。

「あの僕……」
 僕は、女の人を見つめて呟く。どうして自分がここにいるのか、全然思い出せなかった。
「覚えてない? 君、私に一億円で買い取られた後、急に気を失ったんだよ。で、ここは私の家の寝室。そのお金は君にあげるから、好きに使いな」

 じゃあこのお金は、紛れもなく、この人が僕につけた値段なのか……。こんな大金に見合う価値なんて、僕にはこれっぽっちもないのに……。

「……受け取れません。こんな大金をもらう値なんて、僕にはないです」
「ハァー。あのさー価値があるとか、そんなの買い取った私が決めることだから。君に決められる筋合いはないよ」

彼女はポケットから煙草とライターを取り出すと、ライターで煙草に火をつけ、それを吸って、僕の顔に吹きかけた。そして、怠そうに髪をぐしゃぐしゃして言った。

「でもまぁ……貰っても使い道がないってことなら、返してもらおうかな。欲しくなったら言ってね? すぐ用意してあげるから」