楽園が、僕らを待っている。

 それは、本心だった。
 僕は今まで、体の一部を売るなんてこと、考えもしなかった。でも、そうすることで、体の一部が切り離される痛みを味わうだけで、大金が手に入って、父親に二度と暴力を振るわれたり、暴言を吐かれたりせずに済むというなら、そうなってもいい。 

 ――明日も生きるためなら、何でも利用してやる。
 たとえそれが、自分の体でも。

「え? 本当に? 提案した私が言うのもなんだけど、お兄さん本気?」
 首を傾げて、信じられないといった様子で彼女は言った。
「おいおい、提案したのはあんただろうが。それに、……僕は商品になったところで、失うものなんかない」
 呆れたように突っ込んだ後、僕は道路を見下ろして言った。

 ――僕には元から、頼れる医者も親も友人もいない。それに、僕を頼ってくれる人だってッこの世にはいない。どうせ売りに出されたところで、失うものなんてない。

「……へえ。じゃあついてきなよ。絶望しても知らないからね?」
 軽口を叩くと、彼女は僕の手を握って、口角を上げて、まるで何かを企むような顔をして微笑んだ。

「ハッ、そんなのするわけないだろ」
 僕は彼女の言葉を切り捨て、笑った。