「……先生、本当は僕を助けたいなんて、微塵も思っていませんよね?」
「そっ、そんなわけないじゃない」
血が流れた頬をおさえながら、震えた声で先生は言った。
動揺しているのかただ否定しかしない先生を見ていると、僕はどうしようもなく胸が締め付けられた。
もし本当にそんなわけないと思っていたら、もっと声を上げて否定するハズだ。
どうせ胡麻化すなら、見破られないよう、もっと策を練って欲しかった。
本当に僕を助けたいと、心の底から思ってくれていたらよかったのに。
その時、僕はふと、自分がっかりしていることに気が付いて、虚しくなった。
どうやら僕は、いつの間にか、この先生にも希望を持っていたらしい。
父さんは相変わらず僕に暴言しか吐いてこないし、先生だって、僕の意志を聞こうともしてくれなかったっていうのに。
それなのに僕は、未だに希望を持っていたのか……。
「ハハッ」
未来を夢みてる自分が馬鹿らしくなって、僕は思わず笑い声を上げた。
もういっそ、何もかも捨てて逃げてしまおうか。そうすれば、もう希望なんて持たずに済む。
――どうせ僕の世界に、救いなんて一つもないのだから。
「……」
僕は床に落ちていたスマフォを拾うと、無言でドアを開けて、病室を出た。
「まっ、待って! どこに行くの蓮見君!!」
叫び、先生は慌てて僕の病衣の裾を掴んだ。
それが患者が脱走したら自分の名誉に関わるからだとか、そんな義務感みたいな理由じゃなくて、心の底から俺を引きとめたくてやったものだったらよかったのに。
「ハッ」
そんなこと、あるわけないのにな。
自嘲気味に僕は笑って、叫んだ。
「……行き先なんて、あると思いますかっ⁉ それでも、僕はもう嫌なんです! 貴方に自分の意志を勝手に決められるのも、父さんに縛られるのも!!」
「蓮見くん……」
「お世話になりました、先生」



