「……いつか言おうとは思っていたの。でも、仮に君が手術を受けたいといったところで、成功しても病気が治るとは限らないし、それに、君のお父さんが手術費を払ってくれるとはとても思えなくてね。それなら、せめて君が自分の人生を壊した親と二度と会わずに、病院(ここ)で平穏な日々を過ごしてくれたらいいなと思って、ずっと黙っていたの。でも、君がどうしても手術を受けたいっていうなら、それを尊重するよ? 逆に受けたくないっていうなら、強要もしない」
――言おうと思ってたなんて嘘だ。
僕がさっき移植のことを聞くまで、ただの一度もそんな話しなかったクセに。
先生が言ったまるで何かの機械が喋っているかのような、酷い偽善で凝り固まったその言葉に、僕は吐き気がした。
――どうして、僕の意志も聞かずに、父さんの考えを優先する?
手術費を払ってくれると思えないなら、警察を雇うでも弁護士を雇うでもなんでもしてくれれればいいのに。そういうのを雇えば手術できるようになると思うけど、どうするって、どうしたいって聞いてくれればよかったのに。あるいは、父さんじゃない僕の親族を頼ろうとしてくれればよかったのに。
何で、僕のいないところで、勝手に僕の意志を憶測で決めつける?
何で僕じゃなくて、虐待したあんな父親の意思を尊重するんだよっ!!
そんなの冗談じゃない!!
――ガンッ!!
気が付けば、僕は手に持っていたスマフォを、思いっきり先生に投げつけていた。
「きゃっ!」
驚いて、先生は短く悲鳴を上げた。
スマフォは先生の真横に飛び、先生の頬を切って、壁に衝突した。
衝撃で液晶画面が砕け、破片が床に零れ落ちる。



