楽園が、僕らを待っている。


「何よ。別にいいじゃない! 悪口言ってるわけでもないんだから!!」
「そうよ! それに、私達はその子を心配して言ってるのよっ!?」

 女達は、必死で反論の声を上げた。

「これからどうするかを決めるのは、貴方達ではなく、蓮見君自身ですから。彼を無理矢理病院から出す気もないのでしたら、そんなことはよそで話してください。それでは、失礼します」
 そういうと、先生はお辞儀をしてから、目の前にある僕の病室のドアを開けた。

「……蓮見君! まさか、ずっと聞いてたの?」
 僕がいたのに驚いた薫先生は、慌ててドアを閉めて、そう言葉を紡いだ。

「……はい。あの先生、移植って……?」
「そうだね。まだ君には、言ってなかったね……」

 腕を組むと、先生は躊躇いがちに言い放った。

 さっき読んだ記事に書かれていた“五年以上経ってから移植したにも関わらず、モノクロームの症状が回復した者もいる”という言葉が、僕は気になって仕方がなかった。

 このまま白黒の世界で生きていくなんて、僕は絶対に嫌だ。そんなことになるくらいなら、もういっそ死んだ方がマシだ。


 白黒の世界は、僕の頭に父親の虐待に負けたことを繰り返し思い出させて、僕を息をするのすら辛い圧倒的な絶望に追い込む。そんなものを毎日味わうなんて、絶対にごめんだ。

 少しでも治る可能性があるなら、僕はそれに賭けたい。

 何で今まで、先生は僕がそう考えるとも想像しないで、何も治療のことを教えてくれなかったんだ?