いつもは自分のスマホで鍵穴の位置を確認してから鍵を挿すのだが、今回は彼がスマホで鍵穴を照らし続けてくれた。

「助かります」

 ペコリと頭を下げる。

 カシャリと軽快な音がして、私の自転車も解錠した。

 自転車を広い位置まで移動させると、彼が自転車のハンドルを持ったまま待っていてくれた。

「家、どのへん?」

 住所を伝えると、彼との家から意外と近いことを知った。ご近所というわけではないが、バイト先からの方角は合致している。

「途中まで一緒に行こっか」

 断る理由はなかった。

 一緒に自転車を引いて坂を下った。平坦路に出たら、並んで漕いだ。

 並走しながらいろんな話をした。彼が私の予想通り、私と同姓同名の田中伊織で、学年で私の四つ上だということ。彼が中学生の頃、両親は事故で亡くし、それからは親戚の家にお世話になっていること。近くの国立大に通いながら、少しでも学費の足しになればとバイトをしていること。