多少歪ではあるが、大方元通りになり、改めて鍵穴に差し込むと、今度はすんなりとロックが解除された。

「助かったよ。ちゃんと見えていないのに無理やり突っ込んでそのまま押し通そうとしたのが間違いだった」

 おぼろげな光の中、その先客がもう一人の田中伊織だとようやく気づいた。

 刹那、ドクンと胸が鳴った。

 私の視線に気づいたのか、彼が私の顔を見て、あれ? という顔をした。

「君は確かあの時の……」

 ぶつかって転んだことを言っているのだ。私と彼との接点はそれしかない。

「あの時はありがとうございました。まぁ、今日のはそのお返しということで」
「何か安くない?」
「そんなことないですよ」
「意外と痛かったんだけどなぁ、ぶつかったところ」
「何かおごった方がいいですか? ジュースくらいなら……」
「いいよいいよ。冗談冗談」

 彼が自転車を退かしたので、今度は私が鞄から自転車の鍵を出す。