暗闇の中で目を凝らし、私の自転車が先客の隣に置かれているのが分かった。しかし先客は何か戸惑っているらしく、しきり、あれ？　という言葉を繰り返していて、なかなか動きそうにはない。声からして男。ようやくそれだけが分かる。

　人との距離を詰めるのが苦手な私は、出しゃばることもしゃしゃり出ることもできず、少し距離を置いて、傍観するしかなかった。

「何？」

　私の存在が気になったのだろう。先客はそう聞いてきた。少し苛立ち気味の声。

「いえ、急いでないので気にしないでください。それよりどうかしましたか？」

　不躾な言い方をされているのに、今までの癖なのか、揉め事を避けようと頭が働く。この自転車置き場を利用する時点で、この店のアルバイトなのは間違いないだろう。私より後には誰も入ってきていないから、全て私の先輩になる。

「鍵が引っかかっちゃったみたいで、外れなくて」

　私は鞄からスマホを取り出した。ライトを点灯させ、自転車を照らす。

「サンキュ」

　鍵は無理やりに押し込もうとして、曲がってしまっていた。何とか引き抜き、手で真っ直ぐに伸ばす。