そのまま夏休みに入り、私はますますバイトに打ち込んだ。徐々に自分一人で仕事がこなせるようになったことに充実感を覚えていたものの、相変わらずもう一人の田中伊織との接点はない。

 初めのころのときめきは消え、厨房に入る回数も、彼に視線を向ける回数も激減していた。

 悟ってしまったのだ。不意に彼の姿が視線に入り、あぁイケメンだなぁとぼんやりと感じるくらいが丁度いいと。

 それに、あまりに頻繁に視線を送り、彼がその視線に――その視線に含まれる私の気持ちに気づき、嫌悪感でも示されようものなら、バイトに居づらくなってしまう。


 逃げることは私の得意分野だ。割り切ることに至っては、もはや生活の一部といって差し支えない。

 私ともう一人の田中伊織との関係は、かくのごとく平行線をたどるはずだった。