ゴミを捨てに来ただけだからと、一方的に理由を告げて、もう1人の田中伊織はスタッフ用のドアの向こう側にそそくさと消えてしまった。

 ポカンと私は口を開け、彼の背中を見つめるしかできなかった。

 その日から私の生活は変わった。少なくともバイトをしている間、私の方は彼のことを意識するようになった。

 一目惚れ? なのだろうか。ただ、好きなのかと問われれば私自身まだ分からない段階だ。

 でも、気になる。もっと話がしてみたい。憧れのようなものと言えばいいのか、高嶺の花のような存在だと言えばいいのか。

 私は厨房に入る時は絶えず彼の姿を探す。でも案外、彼の姿は見つからない。

 学生のバイトと言ったら暇さえあればシフトを入れるイメージがあったが、彼は違うらしい。

 じゃあ、いつバイトに入ってるのかを知りたくなって、手帳に彼の出勤日を記し始めた頃、シフト表なるものが貼られていることをようやく知った。

 桜木ばかりが居座っている事務所に入ってすぐの壁に貼られていたのだ。バイトが事務所に入ることはほとんどなく、せいぜいが桜木を呼びに顔を出す程度。